親の喫煙で子どもの虫歯リスクが2倍に!?喫煙が口腔内に及ぼす影響について

      2024/05/20

こんにちは。新宿(大久保駅)の歯医、橋本歯科医院です。
最近では、昔に比べるとタバコを吸う方の割合もだいぶ減ってきたように思います。
たばこ産業の「2018年全国たばこ喫煙者率調査」によると、成人男性の平均喫煙率は27.8%、成人女性は8.7%とのこと。
喫煙率のピーク時 (昭和41年)には、成人男性83.7%、成人女性18.0%でしたので、喫煙者数はだいぶ減っているものの、諸外国と比べるとまだ高い状況にあり、現在でも約1400万人が喫煙していると推定されているようです。

当院では、よりよい口腔内環境を整えるためにも禁煙を推奨しておりますが、中には「タバコを吸っていてもきちんと歯ブラシしていれば大丈夫!」と考えている方もいらっしゃるようです。
そこで本日は、喫煙が口腔内に及ぼす影響と、受動喫煙によるお子さまへの影響についてもお話していきたいと思います。

 

喫煙が口腔内に及ぼす影響

喫煙は、歯周病の最大のリスク因子とされており、日本臨床歯周病学会によると、歯周病にかかる危険は1日10本以上喫煙すると5.4倍に、10年以上吸っていると4.3倍に上昇し、また重症化しやすくなるとの報告もされています。

歯周病の原因は細菌ですが、喫煙は身体の免疫力を下げ、歯茎を弱らせることにより細菌による炎症をより増幅させてしまうのです。

主には、タバコに含まれる下記の成分が影響を及ぼします。

ニコチン

タバコに含まれるニコチンは身体の免疫力を低下させるため、歯周病菌に対する抵抗力も落ち、歯周病菌が繁殖しやすい環境を作ってしまいます。
またニコチンには血管を収縮させる働きがあるため、血流障害により酸素や栄養を十分に運ぶことができなくなってしまい、歯周病の進行を早めます。
更にニコチンの血管収縮作用は、歯周病の発見を遅らせて重篤化しやすくしてしまうというリスクも併せ持っています。
それは、血管収縮作用により炎症が抑えられるため、歯ぐきの出血や腫れといった症状が現れにくく、歯周病になっているのにその症状に気が付きにくくなってしまうためです。
歯周病はただでさえ自覚症状がない病気。タバコにより発見が遅れてしまうと、気づいた時には既に重篤化しており、抜歯が必要と判断されてしまうことも珍しくありません。

一酸化炭素

一酸化炭素は、歯周組織への酸素供給を妨げます。
一酸化炭素は、酸素よりも200倍以上も血液中のヘモグロビンと結合しやすいという特徴を持っているため、本来であれば酸素と結合するはずのヘモグロビンが一酸化炭素と結合してしまうことで血液の酸素運搬能が低下してしまい、体の組織の酸素欠乏が起こってしまうのです。
歯周病菌は、嫌気性(酸素を嫌う性質)を持つ菌であるため、歯茎に十分に酸素がいきわたっている状態であれば歯周病菌も繁殖しにくいのですが、一酸化炭素の影響により歯茎が酸素不足に陥ってしまうと、歯周病菌が繁殖しやすい状態になってしまいます。
また歯茎が酸欠状態になり免疫力が低下することも、歯周病菌が感染しやすくなる原因となります。

喫煙は、歯周病治療の妨げとなる

喫煙者は非喫煙者に比べて、歯周病の治療の効果が低いことも問題としてよく取り上げられます。
歯肉を修復して傷を治してくれる細胞を「線維芽細胞」といいますが、タバコはこの線維芽細胞の働きを抑制してしまうため、治療を行っても歯周組織の回復が遅く、良好な治療結果が得にくくなってしまうのです。
歯周病の治療の基本はハミガキと歯石の除去とされていますが、喫煙者には十分な効果が期待でず、また、外科的な処置による治療を行っても手術後の治りも悪くなってしまいます。

 

虫歯になりやすい

喫煙は、虫歯の発症リスクも高めます。
喫煙者は非喫煙者に比べると、3倍も虫歯になりやすいというデータもあるほどで、その理由としては下記のようなものが挙げられます。

唾液の分泌量が減少するため、自浄作用・再石灰化作用が落ちる

タバコを吸うと自律神経の働きにより唾液の分泌を減少させてしまいます。
唾液には、歯の表面や歯の間に付いた歯垢や食べカスをきれいに洗い流してくれる自浄作用や、食事により酸性に傾いたお口の中を中性に戻し歯の溶けにくい環境を保つ緩衝作用、更には食事中に酸によって溶かされてしまった歯の表面のエナメル質を修復し虫歯を防ぐ再石灰化作用や、細菌の侵入や増殖を阻む抗菌作用など、虫歯から歯を守るための働きがたくさん含まれています。
喫煙により唾液量が減ることで、それらのチカラが働かなくなり、虫歯菌が増殖しやすい口腔環境へと移行してしまいます。

免疫力が低下するため、虫歯菌に感染しやすくなる

免疫機能に大きく関係する白血球は、喫煙により、その働きが低下することが分かっています。
また、ニコチンの血管収縮作用により血管が細くなってしまうことに加え、更に一酸化炭素により血液の酸素運搬能が低下してしまいます。
そうすると、歯茎や口腔粘膜も酸欠・栄養不足状態へと陥ってしまうため、歯周病菌同様、虫歯菌に対する抵抗力も落ちてしまい、虫歯になりやすくなってしまいます。

ヤニが細菌繁殖の温床となる

歯の表面は「ペリクル」と呼ばれるうすいタンパク質の膜でコーティングされており、さまざまな刺激から歯を守ってくれていますいます。
しかし、このぺリクルは、タバコに含まれるタールと結びつきやすいという特性も持っています。
タールとは「ヤニ」とも呼ばれるタバコの煙に含まれる粒子状の成分で、粘着質でベタベタとした油成分です。
ヤニは歯に付きやすく、また粒子状のため歯に付着すると歯面がザラザラになり、汚れや細菌が張り付きやすくなって虫歯菌の繁殖の温床となってしまいます。

根面う蝕ができやすくなる

根面う蝕とは、歯と歯肉の境目、歯の根元の部分にできる虫歯のことを指します。
根面う蝕の原因の一つとして、歯周病によって歯茎が下がってしまう事が挙げられますが、タバコは前記のように歯周病のリスクを高めてしまうため、根面う蝕に罹りやすくなってしまいます。

 

口臭がきつくなる

タバコは口臭を悪化させると言われておりますが、その理由としては下記が挙げられます。
それぞれの臭いが混ざり合うことにより、更にキツイ臭いとして不快な思いをさせる可能性もあります。

タール独特の臭いが口内にこびりつく

タバコの煙には約400種類の臭い成分が含まれていますが、中でもタールは独特の強い臭いを持つ成分で、タバコ臭の原因といわれています。
タールは一度口の中に付着すると唾液や水では落ちにくくなりますので、タバコを吸った後でも臭いが残り続け、口臭の原因となります。

口腔内に菌が繁殖しやすくなる

タバコは唾液の分泌量を減らしますが、唾液が減ると自浄作用が働かず、口腔内に菌が繁殖しやすくなってしまいます。 結果、お口の中が常にネバネバとした状態になり、口臭が発生してしまいます。

歯周病で口臭が強くなる

歯周病が原因の口臭は、硫黄臭(腐敗したような臭い)がするメチルメルカプタンという口臭成分が特徴的です。
歯周病になると、歯周ポケットが深くなり、その中で歯垢がたまりって細菌が大量に繁殖し、更に歯周病が進行すると、歯茎の至る所で炎症が起こり、膿が常に出続ける状態になるため、強烈な臭いを放つようになります。

 

歯が黄ばむ

タバコのヤニは、黒色や茶色をしています。
部屋でタバコを吸っていると、壁紙が黄色く汚れてしまいますが、これと同じ現象がお口の中で起きているのです。
歯に付いたヤニ汚れは、タバコを吸って数時間以内であれば普通のブラッシングで除去できますが、1日ほど経つと、ぺリクルとタールが強固に絡み合って歯の表面にこびりついてしまうため、通常のブラッシングでは除去しきれなくなってしまいます。
更に長期間汚れを放置していると色素沈着により歯の内部にまで色素が浸透してしまうため、歯科医院でのクリーニングでも黄ばみを取ることが出来ず、歯の内部から白くするホワイトニングが必要になるケースもあります。

 

歯茎が黒ずむ

喫煙によって、歯茎が黒ずんだ汚い色になってしまうことがあります。これは、ニコチンによる血管収縮が原因として挙げられます。
健康的な歯茎はきれいなピンク色をしていますが、これは毛細血管がしっかり流れていおり、酸素が十分に行き渡っている証拠でもあります。
しかし、タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素の作用により毛細血管が収縮し、酸素が十分に行き渡らなくなってしまうと、歯茎は血の通ったピンク色にはならずに黒ずんで見えてしまいます。

口腔ガンや咽頭ガンを引き起こす

タバコには約70種類の発がん物質が含まれているとされ、喫煙者は非喫煙者に比べて、約7倍も口腔ガンを発症しやすく、死亡率も約4倍高いと言われております。
また、お酒を飲みながら喫煙することで、タバコに含まれている発がん物質がアルコールによって溶け、口の粘膜に直接作用するため、余計にリスクが高くなると言われています。
更に、ガン患者がタバコを吸うことは、再発・転移とは別に新たに発生するガン(二次ガン)の原因となることが明らかになっており、ガン患者にとってタバコはガンの再発のリスクを高めるだけでなく、治療効果を下げる原因にもなると考えられています。

 

受動喫煙で、お子さまの虫歯や歯茎の着色リスクを高める

タバコの煙には、喫煙者が直接吸い込む煙である「主流煙」と、火のついた先端部分から立ち上る煙である「副流煙」がありますが、この「副流煙」はタバコのフィルターを通らずに直接体内に取り込まれてしまうため、喫煙者本人が吸う「主流煙」より高濃度の有害物質が含まれているとして問題視されています。
この副流煙による影響は口腔内にも作用し、受動喫煙でも、虫歯や歯周病などのリスクは上昇し、家族がタバコを吸う子供は、家族が誰もタバコを吸わない子供に比べて、約2倍も虫歯になりやすいという結果もでています。
また、家族に喫煙者がいると、子供の歯茎にメラニン色素が沈着し、黒ずんだ色になってしまう例も報告されています。

タバコは、ご自身の健康だけではなく、家族の健康まで壊してしまう恐れのあるモノ。
ヘビースモーカーの方や、過去に禁煙に挫折してしまった経験をお持ちの方にとって、禁煙はハードルの高い挑戦かと思いますが、おひとりで悩んだり、無理をしたりせずに、禁煙外来などのサポートを受けること等も検討しながら挑戦いただきたいと思います。



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